2006年3月10日金曜日

仕事のことを少し

ICは「産業の米」と形容されるぐらいで、電源が付いている製品ならほぼ間違いなく搭載されているといっても過言ではないものです。
家電やゲーム機などを見れば分かるように、価格はほぼ据え置きでもその機能は他のどのジャンルの製品と比べても成長が著しいです。
これは搭載されるICの性能向上と密接な関わりがあります。

ICを製造して組み立てが完了するまでには関わっていない人間には想像できないほど複雑で数多い工程を経るわけですが、IC1ケあたりの単価は驚くほど安価です。
これはICはそれ単体では何も仕事をすることができず、最終の製品にアッセンブルされて初めてその価値を発揮できるわけですから当然なのかもしれません。

実際取引が行われる際には1こ2こで行うわけではなく、1k(1000こ)単位で行われることが多いです。

複雑な製造工程は人手によって時間をかけて製造されるわけではなく、工程のほとんどは自動機械が出来るだけ短い時間で製造していきます。
1つの工程ラインに据えられる何十もの自動機械一つ一つの単価は、数百万円から数千万円まで高価な機械がずらりと並びます。

その自動機械ひとつの原価を償却し利益を出すためには、ICは単価が安いですので出来るだけたくさん、長い期間、製造し続ける必要があります。
しかしご存知のようにこの業界は「生き馬の目を抜く」といわれるように、製品開発のスピードが速く、原価を償却したくてもそれがかなわずに製品サイクルが終わってしまうことも珍しくありません。

ですからラインで稼動させる自動機械を注文をもらってから製造して納入するまでのスケジュールはできるだけ短くしないと、自動機械を使ってくれるお客さんが利益を上げる機会を失ってしまうことになる可能性があります。

写真の装置はラインの最終工程にあたる検査装置ですが、これは構想から始めて納入するまでの期間は3ヶ月くらいしかかけていません。

工程の詳細は、
チューブからICを一つずつ取り出す→ICを画像検査+内部コードテスト→NG品の選別→良品をチューブに一つずつ入れる→チューブが満杯になったら栓をしてかごに排出する→テストの結果を1ロット毎にファイルしてEXCELファイルで出力する。

というものです。
メカも制御ももちろんオリジナルです。

過去に同じような装置をずっと作り続けているのならば話は別ですが、この業界ではいわゆる「専業メーカー」はよほど難易度の高い装置以外は成り立つものではありません。

ですから装置は大抵一から設計を始めてろくにテストする期間も与えられずに出荷されることになります。
当然その裏では設計者に求められる技量は高いものが要求され、責任も大きなものになります。

ほんの些細な設計上の不備から不良品を生産し、出荷してしまうと最終的な製品に実装されて最悪の場合はエンドユーザーが使用して初めて不良に気付くということになります。
自動車会社などはリコールによって、出荷した全台数を回収・修理する義務を負ってしまいます。
これがIC一個が原因だったとしたら、ICを製造した会社がその被害額を弁償する責務を負うことになりかねません。
小規模な会社だと一発リコールを出したら倒産してしまうでしょう。

理系出身者で物づくりの最先端で仕事をしている人たちは決して高収入でも、ゆとりのある仕事でもありません。
ただ物づくりの面白さに魅力を感じて心血を注いでいると言っても良いと思います。

日本はかつてNHKの番組で紹介されたこともあるように「電子立国」であると思います。
しかし、税金の使われ方、行政の方向を見ていたら地道に工場で物作りしている人々にはほとんど恩恵をもたらすものではありません。

少し疲れているのかもしれません。
ほんの些細な失敗でプライドをずたずたにされることはあっても、逆の境遇はまず望めないと思うと少々虚しく思ってしまう今日この頃です。


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